乾癬

目次
当院は「乾癬分子標的薬使用承認施設」として日本皮膚科学会より正式に承認されました。
「乾癬分子標的薬使用承認施設」について、詳しくはこちらをご覧ください。
乾癬とは
乾癬とは、皮膚が赤く厚みがでた状態で、盛り上がった皮膚の上に、銀色(白色)の粉がふいたり、かさぶたができたりする病気です。皮膚が赤くなるのは、炎症を起こしているためです。炎症を起こした皮膚は、一定期間が過ぎると剥がれて落ちます。フケのように剥がれ落ちる際に、人によっては痒みをともなうこともあります。
乾癬は決して他人にうつるものではありません。
乾癬にはいくつか種類がありますが、乾癬患者の90%は「尋常性乾癬」と呼ばれるものです。以下に、その他の「乾癬」の種類を並べました。
乾癬の種類について
関節症性乾癬 | 関節炎を伴う乾癬 |
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乾癬性紅皮症 | 発疹が全身に及ぶ乾癬。割合は少なく全体の1%程度。 |
滴状乾癬 | 喉(扁桃腺)が傷んだ後、小さくポツポツした発疹ができる乾癬。全体の約4%程度。 |
汎発型性膿疱性乾癬 | 慢性的かつ重症の乾癬です。非常に稀な病気です。 |
乾癬は、全身のどこにでも発症する可能性があります。
皮膚が衣類などとこすすれる部位には、刺激を感じやすいので、乾癬ができやすいと言われています。たとえば、衣服やテーブルなどに接触しやすい、ひじやひざ、腰回りといった部位や、頭皮と頭髪が接触する頭部などが挙げられます。日本においては、10万人以上の乾癬患者がいると推定されています。戦後、乾癬患者は右肩上がりに増加の傾向を示し、女性に比べると男性のほうが発病しやすいといえます(男性:女性の乾癬患者数=2:1)
乾癬の原因
乾癬の原因についてですが、いまだに「乾癬」が発病するメカニズムが、はっきりとしていません。「乾癬」になりやすい体質は遺伝すると考えられています。しかし、完全な遺伝性というのは認められていません。あくまで「乾癬」になりやすい体質の方に、扁桃腺の炎症などの感染症や、薬物、外傷などといった外側からの刺激、肝臓病や糖尿病などの肥満、ストレスといいた内側からの刺激の組み合わせによって「乾癬」は発病すると考えられています。さらに、偏った食事や、不規則な生活などが複雑に絡み合うと、症状が悪化する場合が多くみられます。もともと、「乾癬」は欧米人に多い病気であったことや、日本においては戦後に患者数が増加傾向になったことなどから、「乾癬」の発症と、食事の西洋化に因果関係があるのではないか、と推察されています。
乾癬の治療法
「乾癬」は様々な治療法があります。
外用薬(塗り薬)や内服薬(飲み薬)、紫外線療法(光線療法)で治療することが一般的です。
外用薬(塗り薬)
ステロイド外用薬:炎症を抑える効果
ビタミンD3:ステロイド外用薬より副作用が少ない
ドボベット軟膏・ゲル・フォーム
ドボベットとは、「ステロイド」のベタメタゾンジプロピオン酸エステルと、「ビタミンD3」のカルシポトリオールが混合された塗り薬で、尋常性乾癬の患者様に保険適用があります。この外用薬は、患者様が外用薬(塗り薬)を塗布する手間を軽減するために開発されたものです。1日1回の外用によって高い効果が期待できるだけでなく、急性期から慢性期の症状まで幅広い治療に有効です。ただし、顔の皮疹には使えないので、顔に皮疹がある患者様には、他の外用薬(塗り薬)とドボベットとを併用する必要があります。
ドボベットは3種類(軟膏・ゲル・フォーム)の剤型の中から、患者様のお好みの使いごこちに合わせた剤型を選択することができます。併用して使用することも可能ですが、1週間で使用できるドボベットの量は、すべての剤型合計で90gまでとなります。
【フォーム】(白色~帯黄白色)
2021年6月に発売開始となった新しい剤型です。
1番べとつきが少ない泡状になって噴出されます。広範囲の有毛病変部位にも使いやすいタイプです。これまでの軟膏に比べると、皮膚浸透率も高く効果が期待できます。
【ゲル】(無色~わずかな帯黄白色)
軟膏よりもべとつきが少ない透明な親油性ゲルです。広い範囲でなければ、有毛病変部位にも使いやすいタイプです。
【軟膏】(帯黄白色~黄色)
軟膏タイプは1番べとつきが強いので、伸びは悪いですが、そのぶん薬が垂れたりすることも少ないです。からだや手足の病変に対して使用されることが多いです。
ドボベットの副作用
ドボベットを使用する場合には、「ステロイド」と「ビタミンD3」のどちらの副作用もあらわれる可能性がありますので、注意が必要です。特に「ビタミンD3」の重篤な副作用である腎不全、高カルシウム血症を防ぐために、使用できるドボベットの量には上限が定められています。(※1週間に使用できるのは合計で90gまでです。)
またドボベットを使用する場合は、「ビタミンD3」外用薬を使用する時と同様に、定期的な血液検査を実施しながら乾癬治療を継続する必要があります。具体的には、治療開始後2週間から4週間後に1回、それ以降は、必要に応じて適宜、血液検査を実施することが推奨されています。
ドボベットの注意点
ドボベットは16歳未満の患者様、妊娠中や授乳中の患者様への使用は推奨されていません。これらに当てはまる患者様は診察時に医師までお申し出ください。その場合は、他の治療方法をご相談させていただくことがありますので、予めご了承ください。
ドボベットの薬価
ドボベットは、尋常性乾癬に保険適応があります。
3種類のどの剤型においても、薬価は同じで1gあたり188.0円です。
フォームは1本60g、軟膏とゲルは1本15g、30gの規格があります。
3割負担の患者様の場合、
フォーム(60g)…3384円
軟膏・ゲル(30g)…1692円
軟膏・ゲル(15g)…846円が自己負担の薬代となります。
(※診察代など、その他諸費用は含まれておりません。)
内服薬(飲み薬)
オズテラ錠は、2014年にアメリカで承認されました。日本においては、2017年に承認された「乾癬」の内服治療薬です。「乾癬」の病態には、PDE4(ホスホジエステラーゼ4)の過剰に現れたりすることや、それに伴う炎症性サイトカインの大量産生が関与していると言われています。
これらの症状に対し、オテズラ錠はPDE4の働きをブロックすることによって、炎症性サイトカインの産生量を調節し、皮膚の炎症を抑える働きがあります。それゆえに、オテズラ錠は「PDE4阻害薬」ともよばれています。
オテズラ錠 内服薬の特徴
オテズラ錠は、投与開始後2週間から4週間程度といった早い時期に痒みがおさまりやすい傾向にあります。ただし、症状の緩和には個人差がありますので、投与開始24週間ほどの時間が経過したのちに症状が治まってくる場合もあります。オテズラ錠を服用することによって、頭部や手のひら、足裏、爪などといった治りにくい部位の病変にも効果が期待できます。そのほか、関節症状に対しても効果が期待できます。そのうえ、「尋常性乾癬」に対する他の内服薬(角化症治療薬や、免疫抑制薬など)と比較すると、肝機能や腎機能障害などの重篤な副作用が起きる確率が低いので、定期的な血液検査が必要ないという大きなメリットがあります。
オテズラ錠の服用方法
まずは少量から内服を開始し、以下のように少しずつ量を増やしていきます。
内服1日目 | 朝10mg |
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内服2日目 | 朝10mg・夕10mg |
内服3日目 | 朝10mg・夕20mg |
内服4日目 | 朝20mg・夕20mg |
内服5日目 | 朝20mg・夕30mg |
内服6日目以降 | 朝30mg・夕30mg |
基本的に、6日目以降は同じ量を継続します。症状によっては、減量することもあります。他の治療と併用することもできます。
オテズラ錠の副作用
頻度は低いですが、痒みや蕁麻疹などのアレルギー症状があらわれたり、息苦しさといった呼吸器症状がみられたりする副作用があります。これらの症状が出た際は、当院医師までご相談ください。そのほか、投与開始時期に下痢、頭痛、吐き気などの副作用が生じる場合があります。内服薬の量を徐々に増やして調整するのは、こういった副作用を防ぎ、薬をからだに慣らしていくためです。これらの副作用は2週間程度で改善されるケースが多いです。
また、海外では「気分に変化が生じる」との報告もあります。
万一、治療開始をきっかけに、以前よりも気分が落ち込んだり、意欲がわかなかったり、などと気分に変化が生じた場合は、なるべく早めに医師までご相談ください。
オテズラ錠の注意点
オテズラ錠を服薬する場合は、飲み合わせに気を付ける必要があります。
具体的には、リファンピシン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、フェニトイン、メトトレキサートなどとオテズラ錠を併用すると、オテズラの血中濃度が薄まってしまい効果が弱まります。またケトコナゾールとオテズラ錠を併用すると、反対にオテズラの血中濃度が濃くなって、必要以上にオズテラの効果が強くなってしまいます。他の病気に対して常陽している飲み薬がある場合は、必ず事前に医師までお伝えください。
またオテズラ錠は、妊娠している患者様、もしくは妊娠を予定している患者様への投与はできません。服用時には避妊が必要なので、ご注意ください。授乳中の方への使用は禁忌というわけではありません。しかし、基本的には小児患者様へは投与できないお薬であることをふまえると、授乳中の患者様への投薬はおすすめしにくいです。
さらに、オテズラ錠を服薬する際の注意点として、感染症にかかっている患者様、もしくは感染症の既往歴がある患者様は、オテズラ錠を飲むことによって感染症の病状が悪化する場合があります。そのため、必要に応じてオテズラ錠の投与を開始する前に、感染症の有無を確認することがあります。
オテズラ錠の薬価
※2021年12月時点での薬価です。
オテズラ錠の薬価はそれぞれ1錠あたり10mg/329.9円、20mg/659.8円、30mg/990.0円です。30mgのオテズラ錠を1日2回内服する場合は、1日1980円の薬剤費なので、3割負担の患者様の場合であれば、594円となります。
注射剤
塗り薬や飲み薬など、これまでの治療で十分な効果がみられない患者さんには「生物学的製剤」(注射剤)が用いられます。
生物学的製剤は、乾癬の症状が出ている部位に大量に出ている、炎症にかかわるたんぱく質(サイトカイン)の働きをピンポイントで抑えて症状を改善します。他の治療方法に比べて乾癬の皮膚症状に対する効果が高く、加えて関節症状にも効果があります。
生物学的製剤による治療は、日本皮膚科学会が導入治療の実施を認めた病院やクリニックでのみ始めることができます。治療開始前には、生物学的製剤による副作用のリスクが高くないかどうか、患者さんの健康状態などを確認します。場合によっては薬剤の変更や導入中止を判断するなど、事前の副作用対策をしっかり実施した上で、生物学的製剤による治療が開始されます。
生物学的製剤一覧
スキリージ | イルミア | トルツ | コセンティクス | ビンゼレックス | |
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一般名称 | リサンキズマブ | チルドラキズマブ | イキセキズマブ | セクキヌマブ | ビネキズマブ |
作用機序 | IL-23阻害 | IL-23p19阻害 | IL-17A阻害 | IL-17A阻害 | IL-17A阻害 |
投与方法 | 皮下注射 | ||||
1回の投与量 |
初回150㎎ (1本) 4週後150㎎ (2本) 以降12週間隔で 150㎎ (2本) |
初回100㎎ (1本) 4週後100㎎ (1本) 以降12週間隔で 100㎎ (1本) |
初回160mg (2本) 12週まで 2週間隔で80㎎ (1本) 以降4週間隔で 80㎎ (1本) |
初回300㎎ (2本) 5週まで 週1回300㎎ (2本) 以降4週間隔で 300㎎ (2本) |
初回320㎎ (2本) 16週まで 4週間隔で320mg (2本) 以降8週間隔で 320mg (2本) |
投与間隔 | 12週間 | 12週間 | 4週間 | 4週間 | 8週間 |
自宅での 自己注射 |
× | × | × | × | 〇 |
紫外線療法(光線療法)
塗り薬だけでは良くならない場合や、発疹の面積が広くなった場合に、紫外線療法(光線療法)の治療を実施します。光源ランプを用いた医療機器を使用し、発疹に直接紫外線を照射することで、過剰な免疫反応をおさえる治療です。
紫外線療法についての詳細はこちらをご覧ください。
※「紫外線療法」のページURLをリンク設定お願いします。
乾癬分子標的薬使用承認施設
当院は日本皮膚科学会により、正式に「乾癬分子標的薬使用承認施設」として認可されました。乾癬に対して、投与する「分子標的薬の使用」を認可された承認施設です。
他院で乾癬治療がうまくいかなかった患者様や、難治性の重症の感染患者様の治療を積極的に行っています。当院は乾癬承認施設なので、そのような患者様に対して、新しい治療の選択肢をご相談させていただくことが可能です。また、当院では、すでに他院で「分子標的薬」を導入されている乾癬患者様の維持投与も可能です。乾癬の「分子標的薬」をご希望の患者様は、お気軽にお問い合わせください。
乾癬に関する「Q&A」
Q1:乾癬は他人にうつりますか?
「乾癬」は、決して他の人にうつることはありません。乾癬の患者様は、発疹を見られるという意味で、周りからの視線を意識して生活をされていることが多いです。また「感染」と同じ読み方があるため、感染する病気ではないかと誤解されている場合もあります。
「乾癬」という病気は他人に感染しない、うつらないという情報を正しく認識することが大切です。
Q2:日常生活で気をつけることはありますか?
「規則正しい生活」と「バランスの良い食生活」が大事です。
カロリーの摂りすぎや過度なストレスは、「乾癬」を悪化させます。適度な日光浴はおすすめしておりますが、長時間の紫外線照射は、「乾癬」を悪化させてしまう場合もありますので、過度な日光浴は避けるようにしましょう。「乾癬」は長期間にわたって治療を続けなけらばならないことが多いです。普段と異なる症状を感じた場合は、皮膚科専門医へ相談に行きましょう。
Q3:強いかゆみで悩まされています。どうしたらいいですか?
痒みは刺激によって強まるので、刺激物等を避け、痒み止めを服用してください。「乾癬」は、人によって痒みをともないます。特に、入浴や、アルコールの摂取、香辛料等の食事によって、からだが温まると、痒みを起こす可能性があります。ただし、「乾癬」による痒みは、通常、それほど強くないです。あまりに痒みが強い場合は、別の皮膚病の疑いもあります。痒みが強い場合は、お早めに皮膚科医に相談しましょう。